おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

tatarskiyの部屋(13)「最後の事件」ノート

ドイルと因縁浅からぬロジャー・ケイスメントの件は鈴木薫のツイートの21日から22日のところhttp://twilog.org/kaoruSZ/date-121121にある話題。モリアーティの手帳やモランの風貌というのはガイ・リッチーの映画の話。「ケースメント」で検索しても実り少なかったが、写真は画像検索で多数見られる。(kaoruSZ註)
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「最後の事件」ノート                         

ふと思い立ってロジャー・「ケイスメント」で検索してみたらかなりマシでした。

http://d.hatena.ne.jp/Mephistopheles/20090124
http://ci.nii.ac.jp/naid/40016693804
http://b.hatena.ne.jp/complex_cat/Ireland/
>ロジャー・ケイスメントとは誰なのか?―コンゴ、同性愛、アイルランド蜂起 /友人の友人が彼の伝記をまとめ上げたが,そのドキュメントはアイルランド政府に押さえられた。かなりやばい話が入っているらしい。 2009/07/22


一番下のはその上の論文のブクマコメントで、大学関係者なら論文参照ネットワークで閲覧できるでしょうが、一般に出回っているものではないようなのが残念です。
ケイスメントは向こうではゲイアイコンとして知らない人はいないようで、モリアーティの手帳もモランの風貌もガチでオマージュでしょうね。

あと、『事件簿』読み返してて気がついたんですが、ワトスンの主観の中ではホームズと別居していてもほとんど「離れて住んでるだけ」に近い意識しかなくて、その時彼が結婚していたんだとわかるのは「白面の兵士」でのホームズの語りがあることでかろうじてです。
そしてワトスンの主観では一貫してホームズこそが最優先で、自分がどれほど彼に尽くしていたかについてはとても饒舌です。

で、諸々の状況証拠を合わせて考えるとですが、1902年6月末という設定の「三人ガリデブ」の冒頭(1925年1月発表)に何の説明も無く朝一緒にいる描写があるんです。そしてホームズともう一緒に住んではいないことを初めて彼が口にするのは、「三人ガリデブ」の三ヵ月足らず後(1902年9月3日)に設定されており、発表時期自体もその翌月と翌々月(1925年2月~3月)にあたる「高名な依頼人」冒頭です。
あのみんなが知ってる撃たれて介抱のラブシーンからほんの2ヶ月ちょいでいきなり再婚してて、しかも別居の理由が再婚であることを読者に言わないっておかしすぎますし、実際ほとんど続けて書いたに等しいでしょうからドイルの記憶違いとかでもありえません。

このことへの一貫性のある説明としては「実は二度目の結婚そのものすらホームズのためだった」ということしかありえません。そしてその理由は、メタレベルでの現実世界に対してのそれも含めて「彼と自分の名誉を守るため」以外には無いでしょう。だからメアリーの時とは違って妻に関して何一つ情報が無い。彼女に対するロマンスの実質なんて皆無だからでしょう。そして相手の女性がどんな人だったかも想像がつきます。
医者である彼に素直に依存してくれる、ひどいですがあまり長生きはできないことがわかっている相手。つまりは彼の患者でしょう。ワトスンがはっきり医者に戻っているのもそれと関連しているんでしょう。

で、さらに推測を進めると、どう考えてもホームズが戻ってきてからのワトスンが彼こそを最優先して守り抜くことを固く決意していたことは疑いようがない。そしてあの最後の事件こそが、メアリーとの家庭とホームズとの曖昧な関係との間で明らかに前者に傾いていたワトスンに、ホームズと一緒に死ぬ覚悟さえ決めさせる転機であったとしか思えない。だからあの表面だけでは意味不明な心中旅行の最中に決定的な何かがあったとしか考えられない。

で、あの例の電報の返事を受け取った後、帰れ帰らないの押し問答で30分費やして、その後はふらふらスイスの山の中をさ迷い歩いて死に場所を探していたとしか思えない“心楽しい旅”をしつつ、ホームズが「私たちがたとえどこへ行こうとも、執拗に後を追ってくる危険から完全にのがれさることはできないことを覚悟していた」という一連の流れ。
ホームズが自分でワトスンを連れ出しておきながら「帰国して医者の本業に戻りたまえ」とか言っているのは、本当は単に「帰れ」で十分なはずで、要は「メアリーのいる本来の家庭に帰れ」ということの置き換えでしょう。当然あの電報もモリアーティの一味云々ではなく、いきなり行方不明になったのであろうワトスンの消息を訊ねる連絡が来ていることを確認してしまったんでしょう。

そしてこの流れの中では、ワトスンが自分が「帰らない」ことを証し立てて旅を続けた、言い換えれば一緒に死ぬ場所を探すことに同意したとしか考えられないわけで、つまり橋に火をかけるような「後戻りできないこと」をしてやったとしか思えません。
要するに、あの電報後の押し問答から“心楽しい旅”が始まるまでの間に彼らはプラトニックではなくなっている。逆に言えば、だから死ぬしかないわけです。帰れるわけがない。ワトスンが帰れたのはホームズが死んだことで、“罪”を知る相手がいなくなったからにすぎません。
帰ってきてからではもう悪い夢だったことにしたいような話でしょうが。
それにしても空き家の冒険でホームズが帰ってきてからは、完全にいったんは忘れたことにした悪夢の続きみたいなもので、考えると怖い話です。そりゃ気絶もするわ。
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by kaoruSZ | 2012-11-23 21:07 | 批評 | Comments(0)