おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

tatarskiyの部屋(16)『シャーロック・ホームズの冒険』読解メモまとめ

映画も原作もまだまだ作業中ですが、色々と調査の進展はあったので相方の@kaoruSZさんの方のツイログhttp://twilog.org/kaoruSZをご覧下さい。ところで私からもちょいと楽しい中間報告を。短編集第一巻の『シャーロック・ホームズの冒険』を精読して割り出した、重要なお話リスト、そしてそのものズバリ、この巻の登場人物たちのガチホモ紳士録であります。というわけで【ネタバレ注意】それではどうぞ♪

『シャーロック・ホームズの冒険』所収の短編中で特に重要なエピソード
「ボヘミアの醜聞」
「赤毛組合」
「ボスコム谷の惨劇」
「くちびるのねじれた男」
「緑柱石の宝冠」
以上、全12編中5編。

【ネタバレ】ガチホモ紳士録【注意】

その1.シャーロック・ホームズ氏──言わずと知れた我らが主人公。証拠は多すぎるので割愛。というか、それを核心とした彼の一連の秘密を探り出すのが全編を通して読者に課せられた使命であると言っても過言ではない。

その2&3.ジョン・クレイ氏とその相棒──必要に応じて誰にでも化けられる、年齢不詳で札付きの知能犯。女のような白い手と親密な同性の相棒の持ち主。…誰のことだろうね。

その4&5.ジョン・ターナー氏とチャールズ・マッカーシー氏──愛してるから憎いのよ!金が目当てだったのね!

その6.ネヴィル・シンクレア氏──妻子ある健全な家庭人…と思いきやの二重生活者。我らが主人公と同じお店の常連さんです。気になる方は『ドリアン・グレイの肖像』をどうぞ。そっくり同じお店が出てきますよ♪二重生活の醍醐味については『ジキル博士とハイド氏』もよろしくね♪

その7&8.アーサー・ホールダー君とサー・ジョージ・バーンウェル氏──パパに怒られてでもあんなに貢いだのに!イトコと僕に二股かけてたなんて許せない!こんな冠なんかこうしてやる~!…「嫉妬とは緑の目をした怪物で、人の心を食い荒らして楽しむ」byシェイクスピア

はっきりわかる人たちは以上の通りだが、「ボヘミアの醜聞」も実は…。まあ、ともかく上で挙げた面子全てが先に述べた重要なエピソードの登場人物、かつほとんどの場合カップルなのは一目でわかるだろう。彼らの登場するエピソードにおけるホームズ自身の言動や行動も非常に示唆的なので要注目。あくまでヒントのつもりで半ばおちゃらけた調子で書いたが、シリアスな読解にはぜひ各自で取り組んでいただきたい。おそらくそれぞれに私も気づいていない発見があることだろう。

彼らの繰り広げた事件としてのドラマは、実は裏テーマであるホームズとワトスンの関係をめぐるドラマの展開の伏線であり、それ自体としては読者に明示されなかった彼らの秘密に対する、時と場所を違えた絵解きでもあるのだ。「過去の因縁」「秘密」「恐喝」「嫉妬」といったモチーフは、言うまでもなくホームズ物語の全編に渡って繰り返し描かれる「悲劇の元凶」であり、そしてこれらは一見ヘテロセクシャルな関係に置き換えられている場合でも、全て作品そのものの根底的なテーマである「同性愛」と緊密に結びついている。

ある意味ネタバレだが、大長編としての『シャーロック・ホームズ』の物語は、構成としては「最後の事件」までを境に完全に第一部と第二部に分かれており、しかもラストは作品のテーマと真のドラマの展開を把握した上で読者が並べ直さなければ“絵”として完成してくれない仕掛けになっているのだ。

だがひとまずは長編の『緋色の研究』『四つの署名』そして『冒険』『回想』の短編集二冊分までを読み込めば、そのラストにあたる「最後の事件」の真の内容を理解するには十分である。そしてこの後に来る「空き家の冒険」以降の第二部の構成と重要なエピソードは、実は意識的な第一部の繰り返しなのだ。

また、この大長編を貫く縦糸はホームズとワトスンの関係性をめぐる物語であるのは確かだが、実はその明示的な開始地点は二作目の『四つの署名』からであり、それとは別に最初の『緋色の研究』から始まっており、かつ先述した二人の物語と絡み合いながら並走しているもう一つのテーマがある。

それは最初は完全に読者の代理人である、自身には秘密の無い常識的な視点人物として登場し、明らかに特異な人物であるホームズと関わりを持つことになったワトスンの疑問として明示されていたもの──つまりホームズに対するWho are you? という問いかけである。

語り手としてのワトスンは、同時にこの問いに対する読者の代理としての探偵役でもあり、ホームズに関して彼の知りえた情報は、ある時点までは確かに読者のそれとほぼ比例するものであった。つまり読者はワトスンを信頼し彼に完全にシンクロして読み進めることを当然の前提として刷り込まれている。

だがワトスンは実は物語の途中から完全に読者を裏切っており、それによってホームズに対するWho are you?という問いは、読者に代わってそれを追求してくれる作中人物を失うことで完全に宙に浮いてしまうのだ。そしてそれはこの物語全体の「真の結末」が隠されていることとパラレルである。

早い話があの「最後の事件」における語りから囮であるモリアーティを取り除くことで垣間見える真実とは、ワトスンが読者を置き去りに一人でホームズの「正体」を知ってしまったこと、それこそが真の「大事件」に他ならず、それによってワトスン自身も、読者に対する“裏切り者”になってしまったことなのだ。

要するに、「最後の事件」の詐術を弄した曖昧な書き方そのものが、ワトスンが読者の代理人であったそれまでとは正反対の立場──ホームズとその秘密を共有し、それを読者の目から守るべき立場に立たされてしまったからなのである。

そしてこれ以降のワトスンの記述と彼の実際にとったであろう行動は、全てこの「ホームズと彼の秘密を守る」という目的に沿ったものであり、読者に正確な情報を伝えることなど三の次なのだ。それに気づかずに読み進めても、侵入者を拒むための迷路に引っかかったように真相からは遠ざけられてしまう。

そして真実を知るためには読者自らが、ワトスンがその代理人であることを放棄した問い──ホームズへのWho are you?を自力で追求することを継続しなくてはならず、そのためにはワトスンが隠したがっていること、隠しつつも示唆していることに敏感であらねばならないわけである。

実は読者はこの物語の真相を探るための努力を通じて、図らずもワトスンが辿ったのと同じ道を行くことになるのだ。それは「誰かを理解すること」と「誰かを愛すること」との幸福な一致の──つまりは理想化された究極の“恋愛”の軌跡を辿ることであり、それは“論理”と“感情”のペアをめぐる「愛の再発明」の物語なのである。そしてそれはまた、“知的なもの”と“性的なもの”との統一された調和こそが芸術の源であり、この物語の源泉であることをも意味しているのだ。この物語は本質として“恋愛小説”であり、“芸術家小説”なのである。


P.S
【ヒント】「プライアリー・スクール」を「サセックスの吸血鬼」と重ねて読むとわかる前者の真相が色々衝撃的です。そりゃ口止め料1万2千ポンドでも安いわけだよ公爵様。いやマジで普通は鬼畜外道って言いません?あの秘書は可哀相すぎるが、結果としては彼にとっても生き地獄からの解放だったろう。
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by kaoruSZ | 2012-12-14 16:15 | 批評 | Comments(0)