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おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

ロマネスク

二つの語からインスパイアされた断章。「診断メーカー」の140字で書く企画(お題は日替り)を利用した。#novel_odai http://shindanmaker.com/244907
(2月24日―3月15日)

探偵は『晴れ』と『病』を使用した140文字小説を書きましょう。

何を気にんでいるのか。白い波頭を見やって探偵は独りごちた。醜聞を退け、彼らの名誉と関係を守るため、友は結婚した。家庭を持ったからには来られないことだってある。それは分っている。しかし…。その時風に乗って探偵の名を呼ぶ友の声が耳に届き、彼は急に晴れ晴れとした顔になって振り向いた、

探偵は『鋭い』と『数』を使用した140文字小説を書きましょう。

「少年の矢問ひよる念者ぶり」そう呟いて探偵は続けた。「ハイカイポエットの句さ。昔バリツを習った日本人に教わったんだ。少年というのは」「エフェべだろう」「流石鋭いね。『行く春やおもたき琵琶の抱き心』これもブソンの作だ。僕にあるのは軽いヴァイオリンだがこれで惜春の心を奏でてみよう」

ワトスンは『耳障り』と『肌』を使用した140文字小説を書きましょう。

僕はヴァイオリンを弾きますがと言われ下手な演奏は耳障りだがそうでなければと答えるとそれなら問題ないと相手はにこにこして何だあの自信はと鼻白んだがいざ楽器が鳴り出すと納得した、音がそこを通って出てくる粘膜の理をそのまま感じさせる人間の声そのものの音色に思わずぞくりとしてワトスンは

メアリは『そんな』と『病』を使用した140文字小説を書きましょう。

快く送り出すのはあの蛇が怖いから。引き止めたらもっと恐しいことが起るでしょう。蛇に呼ばれると人のことも私のことも忘れて夫はついて行く。そんなそんなことあるわけないわ。自分の頭に浮んだ考えに思わずメアリはかぶりを振った。いつかあの蛇に夫は連れて行かれて二度と戻って来ないなんて。

ワトスンは『不機嫌』と『白』を使用した140文字小説を書きましょう。

彼はなぜ不機嫌なのか。デイマリー大佐とトルコ風呂に行ったことなど気づかれるはずがないのに。「奥さんだけが男じゃないんだよ」そう大佐が言うのを断りきれなかったのだ。ばくれて彼の前に足を突き出す。「なんでトルコなの?」「え、この靴英国製だよ」私はとぼけた。「そんなに若い子がいい?」

メアリは『恋』と『もし』を使用した140文字小説を書きましょう。

階下に降りて行くと蛇が食堂にいて温めたミルクを飲んでいた。遅かったんで二人とも居間で寝たよと傍の夫。私は作り笑いを浮べ朝食を作らせますわと言いドアに向ったが、その時夫には見えない真実が天啓のように閃いた。もしあの蛇が夫にしているのだとしたら。振り返って蛇の氷のような眼に出会う。

探偵は『信号』と『病』を使用した140文字小説を書きましょう。

「その娘さんは青年を好きなのに相手の方が自分に惚れて信号を送っていると思い込みその意味を解いていた訳さ」と探偵は言った。「で、恋は成就したのかい」「彼女は今院の中だよ」「可哀相に。その種の妄想は女性に多いと学校では習ったよ」「信号を送られても気づかない鈍い男なら知っているさ」

デイマリーは『スカート』と『視線』を使用した140文字小説を書きましょう。

トルコ風呂に連れて行った一件ではえらく恨まれちまったようで昨日も彼と一緒だったんだが人混みで視線を感じて振り向くと長身で鷲鼻の若くない美人が鋭い目でこっちを見ていてスカートをひるがえして立ち去ったところであっと気がついたんだがほんとワトちゃんも大変だね深情けで焼餅焼きの奥さんで。

デイマリーは『醜い』と『月』を使用した140文字小説を書きましょう。

彼が顔をの方へ向けると私は息を呑んだ。後年彼が、女に硫酸をかけられて醜い顔にされた男爵の話にそれを仕立てた時には作家魂に舌を巻いたものだが。「再婚の話、したんだね?」相手を紹介したのは私、さぞ恨まれていることだろう。「他に道はないんだ」引っかき傷だらけの顔でワトスンは言った。

マイクロフトは『手紙』と『楽しみ』を使用した140文字小説を書きましょう。

秘書が小包を受け取って去った。中身はいつもと同じ、唯一の楽しみだと弟が言う「ストランド」最新号。添えた手紙にはこれも恒例の奴の近況が書かれている。だが今回は特別だ。奥さんがいよいよ危ないらしい。巨体を椅子に沈めマイクロフトは独りごちた。弟は帰ってくる。今度こそ二度と奴を離すまい。

モーティマーは『答え』と『指』を使用した140文字小説を書きましょう。

妻の死後ロンドンで悪徳に耽った結果、非業の死を遂げたある人が私のモデルなんだ。訊かれても名前は答えられないけどね。私の妻はどうしたって? 元がワトスン先生の夢だから不整合は仕方がないよ。サー・ヘンリーと私の船出がし示すのは、水辺で別れた先生とお友達の遂げられなかった夢の成就さ。

ワトスンは『吐息』と『卑屈』を使用した140文字小説を書きましょう。

「なぜそんなに君は彼に対して卑屈になるの?」デイマリーに訊かれて私はほっと吐息をついた。「そんな風に見える?」何と説明したらいいのだろう。私がこうして生きているのはあの山中で彼が私を道連れにせず一人姿を消すことを決めたからで、そこまで彼を追いつめたことの償いを今私はしているのだ。

ヘンリー・バスカヴィルは『机』と『黒』を使用した140文字小説を書きましょう。

これが彼の、そしてこれが彼のい手帳で、中には私の名前と小説の最初のアイディアが、いインクで書き込まれている。彼の頭脳から生まれた私は彼が私を考えることをやめても消滅することがないが、それは私が最初から全く実在せずそれでいて彼がいなくなったあとまでも存在し続けるものだからだ。

貴方はワトホムで『入れ替わり』をお題にして140文字SSを書いてください。

↑こういうのもあったけどワトスンが若いボーイを指名したはずなのに若くない美人に入れ替わっていて実は…というのしか思いつかないから書かない。

ワトスンは『音』と『なびく』を使用した140文字小説を書きましょう。

黒雲は嵐の記号…なるほど。記号学概論なる本を彼に見せたいと私は列車の中でもぺージを繰っていた。探偵術にも通じよう。前回は流れ出るヴァイオリンのが彼が中にいる記号だった。今日は…留守のようだが多分…五分も歩くと海の手前の窪地から、彼がそこにいる記号として紫煙がなびくのが見えた。

貴方はワトホムで『こりないやつ』をお題にして140文字SSを書いてください。

↑こういうのもあったけど、デイマリー大佐と二人乗り馬車でトルコ風呂に行ったワトスンが、ホームズに叩き出されて、失踪したフランシス・カーファックス姫を探してヨーロッパ中を転々としつつ謝罪の電報を送り続け、やっと許されて戻ったがまた懲りずに…という話しか思いつかないので書かない。

ワトスンは『面倒』と『料理』を使用した140文字小説を書きましょう。

今日は山鳩を料理して御馳走するとホームズは言った。「嬉しいねえ。羽を毟るのは僕がやるよ」「奥さんは最近どう?」珍しい事を言う。再婚した病弱な妻が死んだらここへ来て一緒に暮す約束だ。「面倒なら僕が片付けるよ」はっとして顔を見ると「鳩だよ」。長い腕を伸ばして土間から鳥を取り上げた。

マイクロフトは『答え』と『面倒』を使用した140文字小説を書きましょう。

「いくらお前の頼みでも今度はな」と私は言った。「このままでは噂になる。いやなってる。どちらかが結婚するしかない。お前には無理だろう」弟は答えない。「彼が面倒を引受けてくれたんだ」弟の肩に手を回す。「分った。僕は引退してサセックスで彼を待つよ。ところで牝猫にきく毒って無いかしらん」

メアリは『醜い』と『歌』を使用した140文字小説を書きましょう。

彼は美しくヴァイオリンの音色もまた美しい。どう言えば彼が醜いと夫は信じてくれるのだろう。灰色の眼は私に向けられる時冬の陽のように冷たく私は心臓が止りそうになる。「御主人をお借りしますよ」「ちゃんと返して下さいね」冗談を言っているのではない。夫は何も気づかず鼻混りに彼の後に続く。

探偵は『シャツ』と『醜い』を使用した140文字小説を書きましょう。

醜聞を避けるための別居を承知した探偵は勘が鈍っていたのだろう。その午後訪れた友に不意に押し倒されても嬉しい驚きしか感じなかった。真相を知ったのは結婚式の招待状を渡された時だ。彼は相手の顔を掻きむしりシャツは血に塗れた。色魔の男爵に酸をかけ醜い顔に変えるキティ嬢のモデルは彼である。

探偵は『そんな』と『不機嫌』を使用した140文字小説を書きましょう。

新聞を開いてワトスンは笑い転げていた。「この『夫の浮気を目ざとく見つけてしまう妻』からの相談、回答が『そんなシャーロック・ホームズみたいな奥さんでは気の休まる暇もありません。少しは不機嫌を直して…』だって」彼は探偵の顔を見たが不意にその表情は凍りついた。誰が相談者かわかったのだ。

ホームズは『恥ずかしい』と『恋』を使用した140文字小説を書きましょう。

“そんな恥ずかしいものが書けるか(怒)”

メアリは『ペン』と『染まる』を使用した140文字小説を書きましょう。

夫は帰ってきた。でも本当には帰ってきていない。ひどく窶れて昼は昏々と眠り続けそれでも一度ペンを握るとどうしてもこれだけはやらせてくれと私の懇願も聞き入れず空が青と薔薇色の朝焼けに染まるまで死んだ男との冒険を書き続けまた倒れ込んで眠る人は心は今も彼と一緒にアルプスの山中にいるのだ。

探偵は『歌』と『ペン』を使用した140文字小説を書きましょう。

僕が君を誘惑していると信じていた時、心をこめて弾くヴァイオリンの音色の中でうっとりとあの女のことを思っていたなんて許し難い裏切りだったけど、でも漸く分ってくれたんだね、あれがセイレーンのだったと、そして、難破をまぬかれた君は、今、ペンからほとばしる欲望に身をゆだねているのだと。

ワトスンは『恋』と『本』を使用した140文字小説を書きましょう。

僕は恐れていたんだ兄のように孤独に、作家として無名のまま自分も死ぬんじゃないかと。医者の仕事に戻り家族を持つべきではなかろうか。僕は知らなかったんだ、だけがエロスだけが作家にを書かせてくれるのを、そして僕のミューズが既に一つ屋根の下で一緒に暮していたのを僕は知らなかったんだ。

メアリ・モースタンは『花』と『切り替え』を使用した140文字小説を書きましょう。

ハイウェストで切り替えオレンジのを飾ったドレスは自分で縫った。私が投げたブーケを受けた長身のご婦人はどなたかしら。そう言っても誰も知らない。本当にいいお式だったと皆に言われるのが嬉しい。ホームズが帰国したら食事に呼ぼうとジョンが言う。きっと来ないわと言いたいのを我慢して頷いた。

探偵は『太陽』と『白』を使用した140文字小説を書きましょう。

「何だいこの『母の葬儀の直後に女と寝てアラブ人を殺し“太陽のせいだ”と言う男』って」卓上に置かれた紙片を見て探偵は尋ねた。「君の留守中にH・G・ウェルズが来てね。未来からの忘れ物だと言って置いていったんだ」探偵は虫眼鏡を取り出した。「見たこともない紙とインクだ」「外国製?」「いや、世界中探してもあるとは思えないね」「『この小説はいライティングで書かれている』って何だろう。何かの暗号かな」「いや、違うだろう。ウェルズは例の実験、続けてるの?」「もう諦めたと言ってたよ。でも未来を垣間見たとか」「多分そうなんだよ」「いライティングって何だろうねえ」

デイマリーは『なびく』と『病』を使用した140文字小説を書きましょう。

こんな話をするのは君が初めてだとワトスンはいつになく雄弁だった。彼がついになびくまで探偵が待たなければならなかった年月にも、帰還以後の束縛ぶりが的なのにも驚いたが、もっと驚いたのはそれを小説に書かないのかねと言った時に返ってきたもう書いているんだが分らないかねという答であった。

ホームズは『名前』と『サイン』を使用した140文字小説を書きましょう。

彼の小説を読むことで私は作家が登場人物の名前に如何に腐心するかを知った。ホームズものには彼の両親の名前も私の両親の名前も出てくるし作中で名を変えられている人の元の名前や彼のミドルネームも読者にサインを送っている。私の探偵術とtatarskiy氏の論考を参考にぜひ見つけてくれ給え。

マイクロフトは『楽しみ』と『ネクタイ』を使用した140文字小説を書きましょう。

彼は一時、役所とベルメル街の下宿の間の店で、若い店員にネクタイを選んでもらうのを楽しみにしていた。無論彼には店員の出自、生活、可愛らしい恋人がいることなど全て分っていた。青年が店を辞めて彼の生活は元に戻り、父の轍を踏まぬため自分の外見を益々人目を引かないものにするよう気を配った。

メアリは『鋭い』と『机』を使用した140文字小説を書きましょう。

夫のを見たメアリは全てを悟った。何が変ったという訳でもないが、書置きもなしに出たとは言い訳のしようがないということだ。メアリの鋭い直感も役には立たなかった。彼女一人に分っても、信じてもらえねば何の役に立とう。そして漸く夫にも分った今、彼は行ってしまったのだ。あの蛇に連れられて!

ワトスンは『醜い』と『退屈』を使用した140文字小説を書きましょう。

君の小説は醜い人間関係と退屈なロマンスから成る。そう言われて笑顔を保てる作家はいまい。僕は君の物語を書く義理などないんだ、君の冒険につきあうのもこれで終りだしね。この推理機械に恋など分るまいと思ったがそれが間違いの始まりだった。彼は私達の関係とロマンスをこそ書けと言っていたのだ。

メアリは『面倒』と『月』を使用した140文字小説を書きましょう。

昼の空に紛れていた白いが今は銀の鏡となって地上を照らす。水を浴びせられたように背筋がぞっとする。蛇の眼に逢ってしまったように。夫が手紙の返事をしないのが面倒な事にならなければいいけれど。が見えない時でも空にあるように、あの蛇は私たちが眠っている時もあの鋭い眼で此方を見ている。

探偵は『弁当』と『黒』を使用した140文字小説を書きましょう。

“海苔弁なんて知るか!”

ワトスンは『答え』と『切り替え』を使用した140文字小説を書きましょう。

冷静に考えて答えを出した訳ではない。気持の切り替えがすっぱり出来た訳でもないんだ。どう考えても妻に無断で彼と旅に出る方がどうかしている。出発する時は先にあるものなど予想もつかなかった。僕は知らなかったんだ、すでに滝に飛び込んだかのように、僕達がとうに激流に押し流されていたなんて。

メアリは『心』と『先生』を使用した140文字小説を書きましょう。

先生」は本当はHが好きだったのね(これからは空々しい頭文字で書くことにするわ)。私のところへ来たのは同性のところへ行く前段階だったわけ? Hと「先生」がメアリお嬢さんを争っていたって書いたとんだホモフォビック批評家もいたわね。結局蛇の本に気づいていたのは私だけ。恋は罪悪よ。

探偵は『シャツ』と『面倒』を使用した140文字小説を書きましょう。

“僕がシャツを替えるのを面倒くさがってると言うのかっ!”

マイクロフトは『指』と『月』を使用した140文字小説を書きましょう。

愚か者はを差したを見てを見ずと言うが弟や私は皆がの方へ顔を向けている時にあえてを探す。というかそのが見えてしまう。これは恐しいことだ。を見せて他を見せまいとしている者が私達に気づけば恐しいことになる。などとありもしないものをてっち上げ人を煽動しているとも謗られる。

ワトスンは『机』と『空』を使用した140文字小説を書きましょう。

家の冒険』は完全な作り事で、モランのアデア殺しを素材に私のの上でペンの先から出てきたお伽話だ。明るい部屋の窓にくっきりと浮んだホームズの影は読者にとっても囮であり、本当の冒険は濃密な闇に沈んだ私達の部屋での暗い再会、人には語れず文章にするわけにはいかない歪んだ時間にあった。
by kaoruSZ | 2014-03-15 05:45 | 批評 | Comments(0)