ピアノ伴奏つき成瀬その2
2006年 01月 27日Oさん、『君と別れて』はよかったでしょうと言っても賛同してくれない。あまりにもメロドラマでと言う。でも、海辺の村へ行く電車の中がよかったでしょうというと、見落したという。私も前回はよく見てなかったらしいのだが、ヒロインが、私たち何に見えるかしら。恋人同士? 兄妹?と言うと、それまで正面から、シートに並ぶ二人を写していたキャメラは、百八十度回り込み、彼らの上方の同じ画面に、幼い男女の子供のペアの顔を入れ、続いて、今度は反対側の電車の〈外〉から、窓越しに二人の子供を捉える。そして、そのあとも車内にいろいろな組み合わせが二人一組でいる様子を――共通点はどれも仲むつまじいこと――次々に映し出す。幸福そうな人たち。そのあいだも質問は答えられないまま続いている。「兄妹ね」というヒロインの声でこの緊張は解ける。
Oさんの賛同を得ようとして、でも女優が可愛いでしょうと顔で釣る。現代的な顔だとOさんもようやく頷く。今だってアイドルになれるとウェブにあったと言うと、松浦理英子に似ていないかとOさん。確かに似てるかも。松浦がアイドル顔なのだ。ヒロイン――水久保澄子のその後の悲しい物語をOさんに聞かせる。『君と別れて』の相手役の男優が合わないとOさんけなす。年取ってる。私もそれはそう思う。あらためて見ても、電車の中の科白もほとんど彼女ひとりの自作自演のように見える。でも、それも悪くない。所詮兄妹以上にはなれない相手に彼女は束の間の、実現されるべくもないファンタジーをあじわっているわけで。この男優は、今回はじめて見た野村浩将の与太者シリーズに、三人組の一人として出ていた人。そこではずいぶんよかった。