ムーミン・トロールとハードリアーヌス(上)
2008年 03月 10日私がこの本を読んだのは、若い友人から、本屋で手に取ってみたものの、Ⅱ章のletter 6のタイトルを見てそのまま閉じてしまったという話を聞いたからだ。そのタイトルは「ムーミン谷とマイノリティレポートにこめたもの」という。なぜそれがその先を見る気にならなくなるほどショックだったのか、彼女が話してくれたおおよその理由は次のようなものである。
『ムーミン』の作者トーベ・ヤンソンがレズビアンだったのは今では知られていることだが、『ムーミン』には女同士の関係は直接的にはほとんど出てこない。あれ(TVで放送していたアニメの『ムーミン』)を見ていた女の子たちが一番惹かれたのは、たぶんスナフキンとムーミンの関係。それがどう扱われているかが気になった。 “やおい的なもの”に出会って自分のセクシュアリティを意識したという人は、実は、男女を問わずいるはず。ムーミン谷は多様なマイノリティが共存する世界、作者はレズビアンです、ですまされてしまったとしたら、そういう子たちはどう思うだろう。男なら、ゲイという概念を知って「ゲイです」ですむかもしれない。だが、レズビアンでやおい的感受性を持つ女の子は、スナフキンとムーミンに萌えてしまう私は間違っているのか? と思うのではないか。
“正しい同性愛者”という規範がそういう形で示されることで、女にとって何が正しいセクシュアリティかという押しつけがここでもまたなされているのではないか?
そう思って本を閉じてしまったというのだ。
非常によくわかる話だし、ヤンソンがレズビアンだったこととムーミンという作品との関係がどのように語られているかは私も大いに興味があるから、それなら代りに読んでみよう、と私は言った。
しかし、帰宅してもそのことがどうも気になるので、すでにその本を読んでいる別の友人にメールして、ヤンソンがレズビアンだったことについてどのように書かれているかを尋ねてみた。
すぐに返事は来た。十八歳の女性と高校時代の教師の往復書簡であり、高校生だった彼女が書いたレポートはムーミン谷はキャラがいろいろ出てきて多様だといった内容で、そして作者については何も書かれていないというのだ。
うむむむむ。拍子抜け。それにしてもヤンソンに触れてないって……。これはどうしても自分で読んでみなければ。