おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

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 本日まで上野の国立博物館でやっていた大琳派展に11日の朝行く。数日前に新宿の高層ビルで見た「ジョットとその遺産」展の印象が吹き飛ぶ良さ(ジョットは本来壁画だから一斑を見たにすぎないとはいえ)。風神雷神の見較べなどにはあまり興味がなかったのだが、宗達、光悦のコラボレーション(昔、辻邦生の小説で読んだっけ)も、光琳に比べほとんど知らなかった弟・乾山の工藝品も楽しめた。こういった洗練の極みというべき品は本当に好みだと思いながら出口近くまで来て、最後に、酒井抱一の弟子で家来で陰に隠れていたような(私の思い込みか)鈴木其一の「夏秋山水図屏風」に心から驚かされる。

 右の夏、生い繁る熊笹の笹縁[ささべり]が同じ幅に白く取られ、全く写実的でない。しかもマットに塗られた緑の山の縁からこの記号化された笹がのぞき、遠近も不明。コバルトブルーの渓流が束になって思いきり走るのが青い高速道路かウドンに見える。白い百合だけがこの上なく写実的に描かれる(「カサブランカ?」「山百合よ」絵の前でおばさまがたが囁きかわす)。

 左、秋では、これまた画面に貼り付いたリアルな桜のわくら葉。焦げ茶の幹を持つ杉の葉先も茶色くなっている。金地にコバルトブルーと金泥だからこれも琳派なのか、しかし昨日描かれたかのようにモダン。日本画の歴史には詳しくないが、たとえてみれば新古今のあとにいきなり「明星」が来たような。新古今の最後に、「ああ皐月仏蘭西の野は火の色す 君も雛罌粟[コクリコ]われも雛罌粟」なんてあったら、驚くでしょう?

 「絶対的にmoderne」でありつづけるのは至難の業だ。和歌は新古今で絶頂を極めて一度死んでいる。模倣上等、だだし模倣者が天才ならば。絵としてなら、酒井抱一の「夏秋草花図屏風」の方が私は「夏秋山水図屏風」より好きだ。宗達の風神雷神の裏に描かれたという前者は、右が雷に倒れ伏す草花、左が野分に吹き上げられる草花を描いたと解説されればなるほどと思う姿で(屏風の傍に草花のさまを真似、伏して見上げたら最高だろう)、構図は完璧、しかも天の気に翻弄されながらの二度と繰り返されない一瞬の生を描いてあますところがない。数多の追随者を産むであろうがもはやこの先はない。新古今にその先がなかったように。

 其一の構図も完璧である。モチーフはすべて既成のもの、匂いやかに立つ百合は抱一の右隻で地に伏すものに似る。だが、これは、いつの景、いづれの時代の風なのか。これは終っていない。この一瞬は過ぎ去っていない。コバルトブルーの上にかぼそい金で筋をひかれた泡立つ渓流の行方は見定められない。 

 たんに私が無知なだけで、いくつものブログが過去記事でこの作品に触れていた。根津美術館の所有で同館は今建て替え中なのだそう。アニメ絵とかセル画とか言われているのを見て微笑せずにはいられない。まさにそのとおり!(だが、それも、たまたま比較の対象があるのでいまそう見えるだけのこと。)本物を見た直後には絵葉書の一枚も手にとる気がせず、大部の図録のみ購入。文章の少なさに失望するも、解説者は抱一の「夏秋草花図屏風」の草花に其一の手が加わっている可能性を示唆。
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by kaorusz | 2008-11-16 17:48 | Comments(0)
 堺市立図書館で異常な事態が起こっていることについては、少なからぬ方がすでにお聞き及びかと思います。「特定の書籍」――というのはBL本(とはしかし何か?)なのですが――が、匿名の「市民」を名乗る者の投書を理由に棚から大量に撤去され、閲覧不能にされ、さらには廃棄されるとか売却されるとか……冗談でなければいったい何事か。詳しくは下に記すサイトでお読み下さい。リンク先でもいろいろ情報が得られます。

 また、そこを御覧になればわかるように、現在、堺市に対し抗議の申し入れが行われており、本日24時を期限に第二次の署名を募っています。

 そもそも本というものはあらかじめ決められた読者を持つものではありません。内容に限らず所蔵して提供するのが図書館です。「当事者」や、書かれていることに賛成の人や、そこにあらわされた考えを疑うことなく受け入れてしまう人に読者を限ることはできません。現に私は『○○と○○○』と題するフェミ系研究者たちによるしょうもない本を、近くの図書館に予約して昨日手にしたばかりです。これはとても自分で買いたいような本ではないのですが(学者と違って研究費があるわけではありませんから)、有難いことに区立図書館ではこんな本でも分館に揃えておいてくれたので、読んで批判することが(まあ、批判する価値もないレヴェルの場合もありえますが)できるわけです。

 私自身、ジャンルBLを愛読する当事者というわけではありませんが、いつもおいでの方は先刻御承知のとおり、「やおい」についてはいささか書き散らしており、件の投書の言説と図書館の対応のいずれ劣らぬ自堕落ぶりには怒りを覚えます。また、そうした言説自体から見えてくるものもあります。しかし、さしあたってそれはおいておきましょう。今回の堺市立図書館の対応は、図書館のふるまいとしては極めて異常で、それ自体、抗議の対象となりうるからです。

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事件の経緯等、詳細は寺町みどりさんのブログでどうぞ。

http://blog.goo.ne.jp/midorinet002/e/2528341fbb8fdcde3308bf30d1c42c81
(以下、申し入れに関する部分のみ転載します。)

今年8月に、一匿名市民の撤去要求により、堺市立図書館から5499冊
(9/11現在5706冊)もの特定図書(BL本)が排除された事件について、
11月7日に、市民派議員(現職、元、前)の連名で
「堺市立図書館の特定図書排除に関する申し入れ」を提出し、
教育次長、図書館長他と、約1時間半にわたり面談しました。

この問題では、11月4日にも、堺市民28人と代理人12人で、
住民監査請求書を提出しています。

第一次申し入れは、緊急に市民派議員で提出しましたが、
申し入れ書の回答期限を11月14日としたので、
広い範囲のひとたちに、「第二次申し入れ」を呼びかけることにしました。
申し入れ人は、「市民、議員、市民団体」で、それぞれ集約します。
第二次の申し入れは、「趣旨に賛同される方はどなたでも」できます。
あなたから、ぜひ一人でも多くの人に知らせてください。

●申し入れに参加いただける方は、以下のフォームにご記入ください。
・市民の方は、「お名前と職業、所属等・市町村名」
・議員の方は、「お名前と議会名」
・市民団体は、「団体名と代表者名、連絡先」 
----------------------------------------------------------
申し入れに加わりたい方は、以下の★必須事項を記入して返信してください     

【市民】(必須) 
★お名前(ふりがな)

★職業・所属等

★自治体名(市町村名まで) 

【議員】(必須) 
★お名前(ふりがな)

★議会名(○○県○○ 議会)  

 【市民団体】(必須) 
★団体名

★代表者名

★連絡先

-----------------------------------------------------
■返信先mailアドレス■  midori@ccy.ne.jp 

■第二次申入れの期限■ 11月12日(水)24時(必着) 
※なお、個人情報は、申し入れ書提出に使用し、目的外使用はしません。

【呼びかけ人】 
上野千鶴子(東京大学大学院教授、「ジェンダー図書排除」究明原告団・代表)、加藤伊都子(フェミニストカウンセリング堺)、呉羽真弓(京都府木津川市議)、今大地晴美(福井県敦賀市議)、ごとう尚子(前愛知県日進市議)、菅井純子(高等学校教員)、寺町知正(くらし・しぜん・いのち岐阜県民ネットワーク・事務局、岐阜県山県市議)、藤本由香里(明治大学国際日本学部准教授)、星野智恵子(冬芽工房代表)、皆川満寿美(大学非常勤講師)、山中紀代子(元大阪府議、堺市民)、山野善子(堺市民)、寺町みどり(原告団・事務局)

【取りまとめ、連絡先】 
「ジェンダー図書排除」究明原告団
 事務局・寺町みどり T/F 0581-22-4989
     呉羽真弓  T/F 0774-72-9172
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by kaoruSZ | 2008-11-12 09:15 | ジェンダー/セクシュアリティ | Comments(0)

お知らせとメモ

 8月18日付の記事で、鷲谷花さんの「複製技術時代のホモエロティシズム」が読めなくなっていると書きましたが、鷲谷さんご本人から、下記に再録した旨、書き込みをいただきました。

http://d.hatena.ne.jp/hana53/20081010/1223647850
http://d.hatena.ne.jp/hana53/20081017/1224253971

 某所での「話題提供」でこの論文は実際に資料にしました。そのこともまとめておきたいのですが、とりあえずははその一部だけ。

 私が鷲谷さんの〈やおい文化〉という包括的な捉え方に注目したのは、『ユリイカ』の特集に(も)顕著な、「腐女子」という種族化や「BL」という商業ジャンルへの限定化に対抗しうるものだと思われたからです。

『ヴァン・ヘルシング』の、ふたりの男性の身体の相補的かつ同質的なエロティシズムの表象と、女性の身体の存在感の抑制も、このやおい/slashを愛好する観客層を多分に意識した措置のように思われます」「そんな少年たち、男たちは、友情から家族愛から屈折した兄弟愛から師弟愛から主従の愛からライヴァル関係まで、露骨にセクシュアルな肉体関係を除くありとあらゆるエモーショナルな絆で結びつけられているうえに、傷の手当て、肉体的・精神的苦痛へのいたわり、戦いの最中の助け合い、死にゆく友への親愛のしぐさなど、濃厚なスキンシップの描写が全編に詰め込まれて、観客の「やおい」リビドーをたえず補充するという仕掛けになっていました。

 鷲谷さんがこのように述べる、何らかの大義に身を捧げる男同士の「エモーショナルな絆」とは、これまでにも数限りなく表象されてきており、そもそもは男のためのもの――男性読者/男性観客の胸を熱くさせるものでした。その隠されたエロティシズムはわかる人にはわかる――〈女〉がこのわかる人に入れられていなかったのはいうまでもありません――というものだったのです。女はそれを資格のないままひそかに流用していたのですが、「やおい文化」はこの流用を顕在化させ、注目を集めさせることになりました。

「コーラ」の次回の拙稿について何度か予定を書きましたが(とりあえず自分を拘束しないと書けないもので)、結局、女性表象ではなくて、セジウィックを読み返しながらの「ホモソーシャリティ再考」といったものに落ち着きそうです。枕は、加藤泰の「車夫遊侠伝 喧嘩辰」です。上のトピックもそこに組み込まれることになるかもしれません。

 以下は、セジウィックについてのメモ。

 セジウィックは、ホモセクシャルと異なるものとして、ホモソーシャルという概念を立てるのだが、よく読んでいくと、ホモセクシャルとホモソーシャルの区別はむずかしい、ともある。こうまでいろいろいわれると、ついに何もいっていないのと同じになる(…)(小谷野敦『帰ってきたもてない男』)

などという事実は全くありません。'Between Men' の3ページですでにセジウィックは、「ホモソーシャルとホモセクシャルとの連続体がもつ潜在的な一体性」を言い、「ところがわれわれの社会において、この、連続体の男性に対する可視性は、根本的に粉砕されてしまう」と明確に述べています(訳文は1996年の「批評空間」に載ったリヴィア・モネによる中上健次論のエピグラム註記から拾ったもの)。

 いわば未分化の「エモーショナルな絆」、セジウィックのいう「ホモソーシャル連続体」から、ホモセクシュアリティが顕在化すると同時に排除される歴史的瞬間は、セジウィックによって次のように描かれています。原文と邦訳(『男同士の絆』)を順に示しますが、どうかこの邦訳を見てセジウィックを読むのをあきらめないで下さい。

... it is this hating homophobic recasting of the male homosocial spectrum--a recasting that recognizes and names as central the nameless love, only in order to cast it out--that has been most descriptive of the fateful twentieth-century societies, notoriously but by no means exclusively the Fascist.

……決定的に重大な二〇世紀の社会――ファシズムの色は濃いが、すべての社会がファシズム一色とは限らない世界――の最大の特徴は、男性のホモソーシャル連続体が、憎悪に満ちたホモフォビックな見方で鋳直されたという点にある。それは名づけ得ぬ愛の存在を初めて認識して、それを主体という中心的位置に据えて鋳型を作り、改めて今度はその鋳型で型をくり抜き、くり抜いた中身を捨て去るという作業であった。

 参考までに以下に拙訳を。いいかげんなものですが、くり抜いたりとか何とかしなくていいことだけはおわかりになるでしょう。

「……ファシズムで悪名高いとはいえそれのみとは限らない破滅的な二十世紀をよくあらわすのが、この、男性のホモソーシャル連続体を憎悪に満ちたホモフォビックなやり方で作り替えたことである。この作り替えは名前を持たぬ愛を中心にすえて認知し、名前をつけたのだが、それはただこの愛を投げ捨てるためであった。」
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by kaoruSZ | 2008-11-09 10:15 | ジェンダー/セクシュアリティ | Comments(0)

残部僅少のようです。

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「Web評論誌コーラ」でお世話になっている黒猫氏のところでぷろでゅーすの黒猫カレンダー、2009年版が出ているのでお知らせします。

下記から通信販売で手に入りますよ。
http://homepage3.nifty.com/luna-sy/ca01.html

「コーラ」等掲載の拙稿は左の、「寄稿先へのリンク」からどうぞ。
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by kaoruSZ | 2008-11-09 08:40 | 日々 | Comments(0)