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おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

「花日記」

「パラレル・ヴィジョン展」より前に世田谷美術館で何か見たのではないかと考えるうち、不意にある画家の名が浮かんできた。「ルシアン・フロイド 世田谷美術館」で検索すると、世田谷美術館の過去の展覧会一覧にヒット(美術館のサイト内にあったのに見つけられないでいた)。92年、「パラレル・ヴィジョン」展の前の年になる。思い出した。確かにあれが最初だった。読売の夕刊の文化欄で記事を見て(今回のウナ・セラディもそう)、はるばる尋ねて行ったのだ。期待にたがわず素晴しかった。翌年は、たぶん、シュヴァルの城の模型を見たくて行った(そしてダーガーを発見した)。翌94年、「秦の始皇帝とその時代」展に招待券をもらって行っている。どうやらこれですべてのようだ。
 けさ、「ウナセラ・ディ・トーキョー」展について検索していて、次のような文章に行き当たった。[カッコ内は内心の声]

 久しぶりに砧の世田谷美術館に行く。12年ぶりのことだ。 [私と同じだ(そのときはまだルシアン・フロイド展を思い出していない)。]前に行ったのは「ラヴ・ユー・トーキョー」展。アラーキーと桑原甲子雄のふたり展だった。 [パラレル・ヴィジョンと同じ年だったのか(あとで——上記の過去の展覧会一覧で——知ったところでは、パラレル・ヴィジョンの直前だった)。]12年前が東京ロマンチカ、そして今度はザ・ピーナツの60年代のヒット曲のタイトルをそのままいただいたもの。歌謡曲は必然的にノスタルジックな感じがする。つまり、私も歳を取ったということだ。 [おや、私と似たような感想を!]

 ここまで読んで、梅本洋一の署名に気がついた。プロの書き手が複数で運営するサイトだったのだ。ホームに行くと、三信ビルについて、丸の内の変わりようについてと、私が最近書いたばかりのテーマと偶然重なる梅本さんの文章が見つかった。

……確かにオアゾにも丸ビルにも人が集まっている。丸の内中央通りには高級ブランドの露面店が軒を並べている。(……)高層もアトリウムもその複合体としても建物に人を集めるのに成功しているように見えるが、こうした選択は、丸の内をまるで郊外のショッピングセンターのように変えているもともとストリートであった丸の内が、それぞれの単体のビルの集合体に変貌しているからだ。/東京の再開発は、見事にストリートを消している。恵比寿ガーデンプレイス、代官山アドレス、六本木ヒルズ、それらのどれもが「広場」とその周辺に建つ高層ビルという構成で人を集めているが、それらは明瞭に周囲には何もない郊外のショッピングセンターの技法 なのだ。広場に集まった人は皆エレヴェーターに乗り最上階をめざす。そして各階層には商店が重層する。ストリートを「遊歩」する人は姿を消し、ランドマークを中心に円周状の街が建設されているからだ。強調は引用者]

 なるほど。先日も木場のイトーヨーカドー(実はここは嫌いではない)で——子供連れでやってきてそこから一歩も出ずに一日中過ごせるのであろう施設の一角で——家族連れに混じってテーブルにつき、ソフトクリームをなめながら、こういう環境で育つのと、上野の山で遊び、広小路を歩き、親の買物のあと松坂屋の食堂に入った私の子供時代との違いを考えていたところだった(木場はともかく、戸田のイトーヨーカドーときたら、ほんとに「周囲には何もない」)。

 そういうことを今度は書こうと思い、さっきもう一度行ったとき、同じサイト内にすごい日記を見つけた。花日記という可愛らしい名前にひかれてクリックしたその書き物が、映画批評に携わる学者たちのサイト内にあってなぜ異色かと言えば、作者の田中花さんが風俗店で働いているからだが、すごいというのは内容を指していうのではない。その文章の感触といったら——何と言ったらいいのだろう、ルノー・カミュの男あさり日記か、ミシェル・レリスの夢日記みたいなのだ。
 すっかり魅了されてしまったので、東京の郊外化についての考察はひとまずおくことにする。
by kaoruSZ | 2005-05-23 23:37 | 日々 | Comments(0)