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おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

スターゲート

初出 2023年9月9日 骨董品モチーフSS


https://x.com/kaoruSZ/status/1700466467848986625?s=20


 これを探していましたの。星座盤を手に静かな声で老婦人は言った。見つかるなんて思いもよらなかった。


 思い出がおありなんですね。水を向けると堰を切ったように語り出す。


 ずっと昔になくしてしまったんです。七つの私に従兄がこれをくれて、 スターゲートだと言いました。この門から飛び込めば別の世界に行きつける。その時のための道標(みちしるべ)だと。


 ある晩、星がひときわ輝いて、私は寝室の窓がスターゲートに変るのを見ました。そして星座盤を手に、窓から飛び出し、星の海を渡ったのです。


 気がつくとベッドの上でした。この星座早見が私のスターゲートに似ているのと同じくらい、その寝室は私の子供部屋に似ていました。けれども私は、これこそが私の本当の部屋で、これまでの私の生活とはこのベッドで夜ごと見ていた夢にすぎないのだと知りました。今日からは全く別の、本当の人生をはじめることになるのだと胸を躍らせました。


 そして朝と失望が同時に来ました。そこにあったのはいつもと変らぬ風景、同じ顔ぶれ、退屈な一日にすぎませんでした。


 けれども一つだけ違うことがありました。星座早見がないのです。私の手元にないばかりでなく、尋ねても誰もそれを見たことはないと言い、従兄でさえ、そんなものを私にやった覚えはないと言うのです。あの星の海を渡るとき、きっとどこかで落してしまった星座早見。それを思いがけず今日、こちらのお店の飾り窓に見つけたんですわ。


 もう一度スターゲートをくぐりますか。品物を手渡しながら私は言った。


 いいえ。今では、そこにあるのは暗黒と死と錯乱だと知っていますもの。それに私が本当のスターゲートをくぐる日もそう遠いことではなくなりました。


 私の否定の身ぶりを彼女は微笑で遮った。


 人生で失ったもの、得られなかったもの、二度と見出せないものの象徴として、これをいただきたいの。


 小さな包みを手に、彼女は私に背を向けた。その姿が角を曲って見えなくなってしまっても、しばらくのあいだ軽い足音は廻廊の石畳と私の頭蓋にひびいていた。



by kaoruSZ | 2023-12-22 20:07 | 文学 | Comments(0)