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おわぁ、寝てるだけです 本館探さないでくなさい/ブログ主 鈴木薫の他に間借人の文章「tatarskiyの部屋」シリーズも掲載しています

by kaoruSZ

まとめて映画館の日々

5/11(日)『狩人の夜』(シネマヴェーラ渋谷)
 昔、三百人劇場で見た作品が並ぶケイブルホーグ特集。この映画は傑作と聞きつつ未見のままであった。11時から一回だけの上映。前夜飲んでいて(私はビール一杯だが)最終の一本前で帰ったあくる朝であり、必死に急いで五分遅れる。「お立見になりますがよろしいですか」そんな科白久しぶりに聞いた。期限切れの会員証更新してもらいながら、「ずいぶん混んでるんですね」と言うと「ええ、きょうは」という返事。階段に座れたら使うようにと小布団を渡される。ドアから滑り込んだその場所から動きようがないので(その場に坐り込むといやに座高の高い人の蔭になりそうで)、足元に布団を落して手提げだけ置き、レインコートと傘を抱えて立ち見。スクリーンには縞の囚人服の二人。ロバート・ミッチャムをすぐに認めるが、もう一人がピーター・グレイヴズだったとは!(帰宅後知る。)

 これは最前列の席で、視界いっぱいに広がる絵本のような作り物の星空を見上げつつ、その下を舟で行く子供たちの恐怖を味わいながら見るべき映画だ。馬にまたがった殺人鬼に追われる男の子が「あいつ眠らないんだろうか」と呟くけれど、あの旅自体、何日続いたものか観客にもわからない。その先にリリアン・ギッシュが待っているとこっちはあらかじめ知っているからまだいいけど……。二十五日にもう一回やるのだけれど残念ながら行けない。

4/20(日)『妻は告白する』『大悪党』
4/21(月)『白い巨塔』
4/27(日)『「女の小箱」より 夫が見た』『猟人日記』
5/3(土)『眼の壁』『ゼロの焦点』
5/7(水)『影なき声』『黄色い風土』

 以上は新文芸坐「日本推理サスペンス映画大全」にて。『妻は告白する』初見。傑作。別に書くかもしれない。帰宅後ウェブで調べると、公開当時の、女は作られるんじゃない、生まれつき女なのだ、若尾文子を見るとそれがわかるという作家の言葉が引用されていた。デビューボ流行ってたんだ! 一方、増村保造監督自身の、女性を描きたかったんじゃない、人間を描きたかった。男は社会的に愛にのみ生きられないから女を使うんだ(女の表象をということだ)という何とも意識的な言葉あり。溝口の『近松物語』で、陶酔しきった香川京子に対して長谷川一夫が迷いを残すのも同じ。

『大悪党』は二度目で、のんびり楽しむ。同じ列に映画に詳しいらしい男の二人連れ(あまり若くない)がいて、始まる前一人が裏話的なことを解説、上映終了時もう一人が拍手。退席しようとしながら、いかにも昂奮さめやらぬ様子で「うまくやりましたよねえ」とか何とか(映画の登場人物について)話しかけるのを、通路側の席の客、「映画だから」と笑顔でいなす。

『白い巨塔』主人公の死で終るのかとばかり思っていたら、最後まで財前元気いっぱい、この時は原作もまだ連載中で死んでいなかった由。『夫が見た』については以前書いたことがあるが、http://homepage3.nifty.com/luna-sy/re47.html
思えば田宮二郎も、ここでは、『妻は告白する』の若尾文子同様、十年間積み重ねてきた努力(悪業だけど)さえも投げうって、ただ愛のために生きる存在(=女)になってしまっていたわけだ(斎藤綾子の書いている出産ポーズだけでなく)。だからストーリー的には不自然と感じられるのだし、彼のために身を捧げてきた岸田今日子が怒るのも当然だ。『妻は告白する』の若尾文子に対象としての女の恐しさばかり見ている者は「女」にはなれない。

『猟人日記』米国籍だとか二世だとか称して結婚詐欺を働いた男が逮捕されたというニュース、比較的近年に新聞記事で読んだ覚えがあるのだが、あれは人生が藝術を模倣したのか。仲谷昇なら、外国人風のアクセント(しかし平板で全然それっぽくない)で偽装しなくたって、素でいくらでも女の子引っかかるだろうに。それを大真面でやるから、どのレヴェルで反応してよいやらこっちが途惑う。一瞬目をそむけたくなったとしても、何度も出てくるのでよく見ればゴム製のカエルみたいに手動で空気を送っているとしか思えないアレにしても。

 銀巴里で歌う若き日の美輪明宏とか、昔の東京都美術館の正面(一瞬だけど)とか映る。たまたま、これを見る数日前、母の古い編物の本を開いて、グラビアページに、色違いの編み込みセーターを着て手をつなぐ仲谷と岸田今日子を見たところだった。帰宅して調べて出演者の中に中尾彬の名を見つける。どこに出ていたのか? どう考えてもあそこしかない。やっぱりあそこだろう。知らなかったら絶対わからない。

『眼の壁』寝不足のため途中で眠ってしまい、目をさましたときは終盤で、ホラーになっていた。手形詐欺をやったのが渡辺文雄だとは気がつかなかった(若過ぎて)。

『ゼロの焦点』失踪した新婚間もない夫を捜して金沢へ行く久我美子の乗る列車の窓にまず雪が見えてきて、次に海沿いを走る列車を縦に、外の低い位置からとらえるキャメラが素晴しい。「社命ですから」と彼女に行き届いた態度で接するにこやかな夫の同僚が穂積隆信とは(またしても)若過ぎてわからなかった。有馬稲子の愛らしさに驚く。

『影なき声』南田洋子は昔のグラビアで見ているので若さには驚かないが、ここまで若い二谷英明を見たのははじめて。わけのわからない映画を作る、とは言われなかった頃の鈴木清順の作だが、無駄なショットが一つもない。手堅くストーリーも語ってはいるんだけど、それだけではなく、スクリーンに映っているものすべてに納得できるのだ。ワイドスクリーンをキャメラは好んで横移動し、肝心なところでは縦の構図でキメる。被害者のズボンの裾に石炭の粉が入っていたという話から、殺害現場が「田端の貯炭場」と判明し、田端で蒸気機関車が煙を噴き上げているという展開は予想がつかなかった。そうか、あのあたりで石炭を積み込んだりしていたのか。中野刑務所とおぼしき塀が一瞬映る。被疑者の一人が味噌・醤油店の主人で、味噌樽が床に並び、醤油の壜が壁を覆う店内が映り、今はこういう店はなくなったと思った人も多かろうが、この翌日私はそういう店でお味噌を買っていたのだった(おかみさんが最初出てきたのに、あとから主人が私を見つけて「**さんのお嬢さん」と紹介したものだから、二人から(また)うちの親の思い出話をされる)。味噌、今度値上がりするそうだ。

『黄色い風土』チラシには東映としかなかったが、冒頭、ニュー東映という文字とともに、おなじみ三角マークではあるが波が打ち寄せるんじゃなくて火山が爆発するオープニングが出たので(あとで調べたが、長続きしなかったらしい)、ラドンが飛び出しても驚かない気分に。『影なき声』の横移動がよかったので、やはりワイドスクリーンのこれはどうかなと思いつつ見ていたが、横移動もするけれど、低い位置から仰角で撮るのと、顔のアップが目立つ。のほほんとした鶴田浩二。上司の丹波哲郎が無駄にカッコいい。

 若い佐久間良子も楽しみだったのだが、お人形さんであった(そういう役)。ずーっと科白のないまま、いつもパーティに行くような恰好で要所要所に現われる謎の女。冒頭、東京駅から出る、「新婚列車と言われている」列車に鶴田浩二が乗り込むが、うっかり新幹線かと思ってしまった。着いた先は熱海(そうか、そういう時代だったんだ。私の両親も熱海へ行ったという。お金がなくて日帰りで)。佐久間良子がなんで鶴田に惚れ込んだのかわからない。途中寝てしまったのでそのあいだに何かあったのかもしれないがたぶんそういうことはあるまい。彼女の兄が〝ラスボス〟として自衛隊の演習場で鶴田と対決するあたりになるともう何の映画かわからない。いつものカッコでふらふらと兄を気づかう佐久間が走ってくるあたりでは笑いたくなる。砲撃の中、兄は手首を吹っ飛ばされ、妹は倒れ伏して鶴田に抱き上げられ、外傷はないようだけど死んだのかも知れず、そのまま二人の世界で終ってしまうのでやっぱり何の映画かわからない。ラドンが出てきても驚かなかったと思う。

 昨十一日はシネマヴェーラで『恐怖省』と『真珠湾攻撃』も見た。これは次回に。
by kaoruSZ | 2008-05-12 11:01 | 日々 | Comments(0)